その場合の起点となる地点、三ノ丸へと至るルートはいくつか考えれるが、今では一般的となったスキー場からのルートでそこへ向かうにはあまりに芸がないので、今日は氷ノ山の北西に位置する氷山名水から入山し、氷ノ越え、氷ノ山山頂を経て三ノ丸に向かうことにした。
下山後の車の段取りをした上、氷山名水をIさん、Sさんとともに出発。
(8時10分)
きれいに見える東山~鳴滝山を背景に新雪の上をサクサク歩く。
スキー場のリフト利用して三ノ丸へ上がるルートなら、今頃きっと多くの人に踏み荒らされズタズタに違いないだろが、こちらのルートは入山者はなく真っ白なヴァージン・スノーにトレースする。

曲者の雑木の灌木帯を抜け出迎えてくれたのは、きれいに化粧した赤倉山西面の樹氷。


氷ノ越え手前は急登に加え氷化した古い雪に悪戦を強いられたものの、つぼ足も交えなんとか氷ノ越え着。
(9時40分)
そこに着くと山頂から下ってきたという若者たちのグループがいた。
彼らはそれなりの装備で冬の氷ノ山に来たようだが、その中のいで立ちがちょっと変わった一人にSさんがひどく興味を示した。
それもそのはず、彼は冬の山に入るには似つかわしくないモノを携行していた。
マウンテン・バイクだ。
自身は雪のない時期にも氷ノ山でマウンテン・バイクに遭遇したことがなく、こんな時期にそんな人と初めて遭遇したのだからSさんが驚くのもうなずけるが、
「何をしようとして、そんなものを・・・?」
が我々三人の率直な意見。
その旨尋ねると、彼は彼なりに携行した理由があったようだが、いま一つよく理解できずじまいだった。
Sさんは
「こっちが(こちらが)新聞記者だったら明日の新聞にこの写真を載せてあげるんだけど、あいにくそうではないので、残念だな~。」
こんなことを言いながら彼にポーズをとってもらい記念の写真を撮っていた。
彼らから見るとどう見てもオヤジにしか見えない我々の考えは、彼らには及びもつかなかったのか、それともその逆で彼らの考えがただ単に我々に理解できなかっただけなのか・・・。
真意は謎のままだ。

親水公園へ下る彼らを見送ったら、氷ノ山へ向け稜線を歩き出す。
(9時50分)
見上げる山頂方面は仙谷方面から不穏なガスが流れ、なかなかその全容は見せてくれないが、この付近のブナの樹氷はとにかく素晴らしい。
見上げると、上空に広がる青空ときらきら輝く樹氷とのコントラストがさらに見事に目に映る。
この光景は好条件の下、気温の上がりきらない時間帯に歩く者に与えられたご褒美みたいなもの。

標高を上げるとともに積雪量は増すものの仙谷分岐までは尾根通しなので問題なく歩ける。
ただ、これまではその存在すら顕著でなかったコシキ岩がここまで来ると眼前に立ちふさがるようになり、今ルートで最大の難所を迎える。


ここの雪の状態は氷ノ越え下で経験したのと同様、氷化した古い雪の上にうっすらと新雪が積もっている、一番タチの悪い状態だ。
先ほどの彼らはこの難所をどう攻略したのか?
自身の足元に神経を集中しながらも、こんな思いが脳裏をかすめた。
「あのバイク、どうやって通過したのだろう?」
ここまで来ても彼らのやることは理解できないばかりだった。
この難所を通過すれば山頂はそう遠くないので、慎重にやり過ごす。
大きくなった三角屋根の避難小屋を見上げるようになると、やがて氷ノ山に到着だ。
(11時25分)
山頂は、案の定、三ノ丸方面から上がってきたと思われる人たちで大賑わい。小屋の周りにはあちこちに雪上に腰を下ろした人の輪ができていた。
それもそのはず、穏やかな天候の下、ここ二、三日に降った新雪が目の前に広がる光景を見事に白一色に変えてくれたから、自然とこんな行動になるに違いない。

小屋を覗いてみると、ここはここで多くの人でほぼ満員。
その中には何人もの見覚えのある顔があり、久しぶりの再会に席を空けてもらい少し話もさせてもらった。

いつもなら、ここがある意味目標点なのだが、今日は三ノ丸が当面の目的地なので昼食の店を広げる彼らの姿を恨めしげに横目で見つつも足早に三ノ丸へ向け滑る。
(11時50分)
山頂南では独特の風体に、すぐ彼であることを見抜けてしまった津山・Kさんや、山頂小屋でもお会いしていた、坂ノ谷へと下られる神戸・O崎さん、K山さんたちとも話しながら三ノ丸へ向けのんびり歩く。


三ノ丸に到着し、避難小屋内でようやく遅めの昼食。
(12時35分)

腹ごしらえができたら、ここに来て、ようやく今日のメイン・イベント、滑降だ。
(13時40分)
その前に、天気は上々でこの上ない条件下でも戸倉側に下るとなると話は別で、その都度緊張感を持たねばならず、今回も同様。方向確認はしっかりやる。
油断するととんでもないことになるので、この状況でも地形図、コンパスは欠かせない。
コンパスで目標を定めたら東屋の先から快適に滑る。雪の状態はすこぶる良く、思い々々にシュプールを描く。
あっという間に樹林帯に達し、振り返り見上げれば真っ白な大雪原が広がり、青空と雪面を分ける一本のスカイラインが走る。
これぞ三ノ丸!

至福の時はそう長くは続かないが、傾斜がゆるくなってからも次々にこの尾根の主のような巨大なブナやミズナラがあらわれ気持ちを癒してくれる。

しばらく下ると目の前にこれまでに見たこともないほどの巨大なブナが現れた。
見た目はいかにも元気がなく今後の寿命も心配なほどの容姿だが、これほど老齢で大きなブナは見たことがなく、まだまだ氷ノ山にも知らないところがあるのだと驚かされた。
カラマツのピークを過ぎると、これまで三ノ丸から続いていた先行者のシュプールが左の谷筋へと下ってしまい今後の針路に少し頭を悩ませたが、ほどなく目的としていた林道をSさんが右手下方に発見。
短く滑ると無事、林道に下山した。
(14時55分)
「あとは林道を下るだけ。」
安堵感からか、ここにきて雪のテーブルを造りティー・タイムとする。
一息ついたせいか、ここから旧戸倉峠への林道は思っていた以上に距離があり意外と遠く感じたが、やがてはその峠をすぐそこに見る三叉路に到着することができた。
(15時55分)
あまりスキーの走らない個所もあったが、スキーを脱ぐことなくここまで下れたら文句はないだろう。
下って来た三ノ丸方面を見上げても、そこから西へと延びる西尾根の上部付近ににわずかに白く輝くところが望めただけだったが、そこが小さく見えたことで余計にずいぶんな距離を下ってきたことを実感することができた。
落折山から下山され、目と鼻の先の鳥取側のこちらまで来られていたご夫婦と短く話したあと、切通しの峠をあとにした。
(16時00分)

この旧道ではスキーがよく走り、調子に乗って飛ばしていると・・・、
雪が切れている個所があり直前で気づきジャンプしたものの、時すでに遅し。
一歩間違えば大ケガをするところだった。
「危ない危ない・・・。」
その後、R29、旧トンネルまではあっという間だった。

すっかり雪の消えた旧道を歩くと駐車地点もすぐそこだった。
(16時15分)

同行のお二人のおかげで決して単独では成し得ないこのルートをトレースでき、また一つ氷ノ山に新たなルートを見いだすことができた山行だった。
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