2024年1月14日

14/01/24 禿の行者山

去年くらいから気になっていた、雪彦山からなら谷を東に三っつ、尾根を二つ隔てた尾根上にある『三等三角点・山の内』に行ってきました。

断崖絶壁の行者の岩

パタゴニア

表題の通り、この点は禿(はげ)の行者山といって、かつては修験者が行き交った険しい道。

修験道としてははるかに名の知れた雪彦山の陰で、こちらはどんなルートなのか興味津々、ようやく足を向けました。

尾根上より見る雪彦山の岩峰群

先に書いたように三っつ先の尾根は地形図から判断できましたが、せっかくなのでそこからの岩峰群をぜひ見てみたい思いから、その尾根のどこがピークなのかを判別する必要があるため、前知識として、自身がこれまでに雪彦山・大天井岳や地蔵岳から撮った何枚かの画像で、このピークの位置を調べました。

尾根の標高の低い部分は『四等三角点・高山』のある手前の尾根にさえぎられているので全体は見えませんが、地形図と画像を参照しながらじっくり見て「ここに違いない」視認できるP513付近から上部を特定しました。

ということは、その近くまで目線が上がれば洞ヶ岳の岩峰群が見えるはずです。

久しぶりの未踏ルートと、そんなことも大きな楽しみにして、先ずは姫路市指定文化財、佐中集落の妙見堂の長い階段を昇り始めました。

長い階段を昇ったら妙見堂脇からスタート

さすがは修験者の道。
登山口の妙見堂へと続く階段も、むしろ優しく感じるほど、その後は厳しいルートが続きます。

歩き始めから踏み跡は薄く、テープが心強いばかりの、とにかく急傾斜。

しばらく頑張ると緩くも感じさせる平和な道になり、植林帯に差し込む陽の光が心地よいですが、それもわずかに短いです。

尾根通しの一本道とはいえ、踏み跡がこれだけ薄いと絶えず気を張らざるを得ず、登りはまだしも下りはどうしたものかも考えながら歩きましょう。

やがて左手、谷を一つ隔てて見えている尾根の向こうに、もう一つの稜線が見え始めました。

樹々が邪魔をしてなかなか思うように展望が効きませんが、おそらくあれは馬の頭から雪彦山方面ではと期待していたところ、わずかに岩峰が見えるような・・・。

P513手前で尾根の上に馬の頭~大天井岳~雪彦山・三角点稜線が姿を見せてくれた

大天井岳、不行岳、P838、三角点と中央右に地蔵岳

「これよ、これ。」
学習した通り、これは目線が手前の尾根の上に上がった証でしょう。

全容が見えるわけではありませんが、違ったアングルで見る岩峰は新鮮です。

大きなヒノキの株が倒れているところがあり、ぽっかりと空いた空間からは、これまで以上によく見えたと思ったら、P513はすぐそこでした。

P513から一度短く下り再度、上りに転じても傾斜の急さに変わりありません。

踏み跡は変わらず薄い中、左手の展望も探りながらグングン登ります。

植生は植林から雑木林になり、今が冬なこともあって明るく、思いのほか気持ちいいです。

何となく前方の空が明るくなってきたと感じ始めたころ、目の前に古びたワイヤー。

「何で、こんなところに・・・?」
と思いながらも歩を進めると眼前が一気に開け、そこに現れたのは見覚えのある石像。

無事、行者像にとうちゃこ、です。

役行者像と遠景は七種槍、七種山方面

行者像で南望

行者像(右上)の建つ岩場と明神山、書写山

確かに、すごいところに設置されています。

眼前には南から西にかけての展望が素晴らしく、足元には扇状の谷が広がり、その先には幾重にも重なる尾根や谷の遠くに七種山や明神山が見えています。

標高は650メートルほどと、決して高いとは言えませんが、見る限りここから人家を確認することができないことで、より山深さを感じさせるにふさわしい場所だと感じました。

三角点は、もう少し先の高見に敷設されてるので、もちろんそこまで足を運びましょう。

岩場のナイフリッヂは確認することもなく当然のようにエスケープ。

裏側をトラバースしてやり過ごしますが、絶壁の裏側とはいえ、こちらもかなりの角度の斜面ですから決して気を抜けません。

わずかながらも降雪もあるので、余計に緊張させられます。

岩場裏側をエスケープ
帰路写す

圧巻は反対側から見た際の岩場の反り具合にありました。

こちらからは岩壁を下から見上げる格好となり、目にした角度は90度以上あって、岩場全体が谷側に傾倒しているように見えました。

岩壁を山頂側から見ると90度以上に反っているようにも見える
遠くは七種山、明神山と中央奥に書写山
左下に落ちる尾根が上がってきた尾根

最後に短く急登すると三角点のあるピークに到着です。

あいにく雑木に囲まれ展望は思うに任せませんが、これでも木々が落葉したこの時期ならではと割り切りましょう。

東西に少し長いピークも雑木に囲まれて展望はあまり優れない

場所を選ぶ必要はありますが、何とかここからも洞ガ岳岩峰群を望むことができ、それなりに満足できました。

山頂西側よりみる雪彦山・洞ガ岳岩峰

あとは行場の岩場を遠目から見ればいいと歩を進めましたが、ここでちょっとミス。

油断は禁物です。

三角点のある山頂から、行者像から見えていた展望が利くであろう小さな岩場へ行くには、南東に伸びる尾根に向かわなければならないところ、そのまま直に北東の尾根に乗って進んでしまっていたのです。

どちらかと言えば南東尾根よりも北東尾根のルートの方が、それなりに踏み跡があり、また傾斜も少しは緩いこともあるので進行方向には注意が必要です。

山頂まで戻り方向を正して急斜面を短く下ると、先ほどの岩場がよく見える小さな露岩上に出ることができました。

上がってきた尾根と行者像のある岩場
スカイラインは左端が明神山

岩場と見上げる禿の行者山

こと眺望に関しては、指呼に行者像の設置してある岩場を見たり右手にピークを見上げ、南望すれば遥かに連なる山並みを見晴るかすこの場所こそがベストポジションでした。

見晴るかすと北アルプス・針ノ木谷を彷彿させる見事な谷が広がり
先には表銀座、槍・穂高に見えなくもない七種山や明神山

足元に広がる扇状の谷が次第に狭まり、中景に衝立状に横切る尾根。その奥に、さらに連なる遠くの山々・・。

酷似していると感じたのは実際に両者を見た自身だけだと思いますが・・・。

針ノ木峠から見下ろす針ノ木谷と北葛岳、七倉岳、船窪岳稜線、
遠く餓鬼岳、表銀座、槍・穂高連峰や野口五郎岳方面

ところで、朝、妙見堂境内に地元氏子の方が集まっておられたので
「ここの禿の行者山の名前の由来はご存じですか?」

と、尋ねてみたところ、どなたも知らないとの返事でした。

ならば「知る人はないですね。」
ということで別れてきたものの、現にここで、その岩場を目の当たりすると、こんなことを勝手に想像してしまいました。

それは、かつて、この岩場は何かに覆われていたものの、何かの拍子に剥がれ落ちて今のような状態になったのではないか、と。

山の一部が禿げて行場になったから、『禿の行者山』。
こんなのはどうでしょう?

勝手に想いを廻らせてみました。

見ごたえ十分の不行岳、地蔵岳

下山はこのまま尾根上を南下しP605を経て林道へ出る選択肢もありましたが、初めてのルートということで、今日のところは大人しく往路を引き返すことにしました。

それにしてもいい天気です。

本来は下山後、先日、空いた『雪彦山』の空瓶を回収に大天井岳に上がろうと考えていましたが、思わぬ時間もかかりましたし、この上天気に、あえなく中止してP513でのんびりしました。

林に囲まれたP513

こんな空を見上げながらブレイクしました

風はなく見上げる空がどこまでも青く、これ以上ない安穏とした空間がここにはありました。

北を見れば少し遠くの谷すそに見える集落が、さながら南信の遠山郷のような景観、風情で、こんなところでこんな情景に出逢えるとは思ってもみないことでした。

谷間に小さな集落が見えています

奥に見える姫路市最高峰の三辻山か黒滝を
聖岳か上河内岳に置き換えるには、ちょっと無理がありますかね

夢前川の最源流、姫路では最奥と言える熊部の集落ですね。

登山口の佐中の集落ですらずいぶん山奥なのに、さらにその奥地に今も生活している人がいることが驚きです。

ここから南へと落ちる尾根を下ることも頭にありましたが、地形図を見ると、どの道、急傾斜に違いなく、状況の分かっている往路のルートを下ることにします。

登りでは妙見堂から朽ちたアンテナ設備までが特に足元の悪い急登だったとおり、最後にきても気を緩めることはできません。

足元に集中するうち集落の犬の鳴き声が次第に大きくなると妙見堂に下山です。

阿弥陀寺

境内には立派な木が何本もあります

250段近くある長い階段も、それまでの不安定な足元に比べると何の不安もなく下れるのは、ありがたいことです。

無事下山しました
上山時には鳥居にあった、しめ飾りがなくなっていました

下山後に、ブレイクポイントから見えていた集落の確認に、車をさらに谷の奥に向けて走らせました。

最奥の林道ゲート付近まで来て振り返ると、つい先ほどまでいた尾根が横たわっているのが確認できました。

右端に見えているのがP513なので、思った通り、そこから見えていたのは、この熊部の集落でした。

左端にかろうじて見えるのが禿の行者山でしょう。

熊部から見上げる今日歩いた尾根のスカイライン
左端が三角点で、すぐ右の平らの裏に行者像のある岩場 右端がP513

今は公民館となっている学校跡と思われる建物と小さな広場

最奥の集落は現在ではどれだけの人が生活されているか知る由もありませんが、生活感のある数少ない民家に混じり、それなりの数の空き家も点在していました。

至近に存在する同じ修験の山も、場所柄と言いスケールと言い、雪彦山とは一味も二味も違う今回の山域でしたが、この時期ならではの葉を落とした樹々の合間から見える風景や、修験の道を今に伝えるかのように、山中で誰にも会わない山行は、ほぼ記憶になく、大変印象深いものとなりました。


山行にあたっては自分の位置を逐一確認できるツール(GPS、地形図、コンパス等)必携です


おまけ:
朝、昨夜わずかに降った雪に化粧された姿が珍しく、またいつになくキレイだったので麓の山之内立船野のとある場所から、初めて撮ってみました。

雪彦山・三角点付近(左端)、P838、大天井岳と雪彦川対岸・P848

青空に映える稜線と、これまではそこから見るばかりだった大天井岳を違ったアングルで見て、撮れて、これも記憶に残るワンシーンとなりました。

山歩き、登山, 雪彦山,

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