板屋岳付近から見上げる荒川三山
荒川岳の山容については、それまでの小河内岳辺りで全体像はつかんでいたつもりで、中岳から渓に向かって落ちる尾根を登るものだとばかり思っていた。
ところが縦走路は小河内岳から高度を落とすと林の中をたどるようになり、時折見えるその山容は次第に変わって行く。
板屋岳からはさらに高度を下げ、高山裏避難小屋から見上げた中岳は風貌も見上げた大きさも、これまでとはずいぶん変わってしまったようだった。
ここからは登山路が付けられているだろうと考えていた中岳へと延びる尾根は左手に見え、さらに左奥に悪沢岳も見上げることができる。
思っていた以上に西に回り込んできたことになる。
実際の登路はその尾根ではなく最も西のカールにあった。
小屋の標高は約2,400メートル。
前岳までの標高差は600メートルもあり、それ以上に眼前に立ち塞がるかのように聳える山塊に、これまでの疲労も重なり不安を覚える。
20分ほど歩くと小さいながら水場がある。
稜線上の貴重な水場だが給水すると当然、重くなる。
しばらく針葉樹の林をトラバース気味に歩くと、やがてダケカンバの点在するカール底のような開けたところを行く。
黄葉の始まった灌木帯をジグザグに縫って歩くこの辺りが最も厳しかった。
荒川中岳付近から北望すると塩見岳をはじめとする北部の山々が一望できる
ここで脳裏に思い浮かんだのが地元の高御位山のことだ。
振り返り見ると、たどって来た山々からある程度自分の居る位置は理解できたが、あまりのつらさにGPSで高度を計測してみた。
2,650メートルだった。
稜線の標高が3,000メートル弱とすると、残りの高度差は350メートルほどで、ほぼ、その標高と同じくらいを残す高さまで登って来ていた。
標柱まで来ると開けたガレ場を歩くようになるので、特にここからは長尾登山路を思い浮かべながら前岳目指し一歩一歩歩く。
登山路は次第に傾斜を増しザレてくるが、脚を前にさえ出せば稜線は徐々に低くなる。
「まだ、鉄塔辺りか。それとも露岩付近まで来たか。」
早朝から10時間以上も歩いてきた身体には、かなりきつい。
見える稜線を高御位の山頂に見立て、もうひと踏ん張りだ。
期待していた赤石岳はガスに包まれていた
終盤、背後からは塩見岳が見守ってくれていたが、ようやくたどり着いた稜線では赤石岳はガスの中で機嫌よく迎えてはくれなかった。
ちょっと、がっかりした。
前岳へは崩落地を右手に見ながら、気の抜けない稜線をもう少し歩かないといけない。
のんびり広い前岳山頂で色んなことから解放され、一気に脱力した。
中岳へはしばらくしてから歩き出す。
中岳に着くと、西に傾いた太陽に照らされた主峰、悪沢岳が迎えてくれた。
黎明の富士
昨日、ここまで頑張ったお陰で今日は悪沢岳からの、こんなにすばらしい朝の光景に会うことができた。
どこででも一期一会、どんな光景も千載一遇。
こちらに山行の画像
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